会社設立後に必要な手続き10選|社会保険・労働保険・36協定・就業規則までまとめて解説
会社を設立した後は、登記が終わればすぐに事業を始められる、というわけではありません。
特に、法人として会社を設立した場合や、従業員を雇用する場合には、社会保険、労働保険、雇用保険、労働基準監督署への届出など、複数の手続きが必要になります。
しかも、これらの手続きは「書類を出せばよい」というだけではありません。提出する順番、添付書類、提出期限、提出先を間違えると、手続きがスムーズに進まなかったり、後から修正対応が必要になったりします。
この記事では、会社設立後に忘れてはいけない手続きを、社会保険労務士の実務目線で10個に整理して解説します。
会社設立後に必要な手続きは大きく3分類
会社設立後に必要な手続きは、大きく分けると次の3つです。
1つ目は、社会保険関係の手続きです。
法人の場合、社長1人だけの会社であっても、原則として健康保険・厚生年金保険の適用対象になります。つまり、従業員を雇っているかどうかにかかわらず、社会保険の新規適用手続きが必要になります。
2つ目は、労働保険・雇用保険関係の手続きです。
こちらは、従業員を1人でも雇う場合に必要になります。労働保険とは、労災保険と雇用保険を合わせたものです。法人で従業員を雇用する場合には、原則として労働保険の適用事業所になります。
3つ目は、その他の労務管理上必要な手続きです。
代表的なものが、36協定、就業規則、雇用契約書です。特に36協定は、従業員に1分でも法定時間外労働をさせる場合には必要になります。
会社設立後に必要な手続き10選
会社設立後に押さえておきたい手続きは、主に次の10個です。
健康保険・厚生年金保険 新規適用届
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
健康保険 被扶養者(異動)届
労働保険関係成立届
労働保険 概算保険料申告書
雇用保険 適用事業所設置届
雇用保険 被保険者資格取得届
36協定届
就業規則
雇用契約書・労働条件通知書
それぞれ順番に見ていきます。
1. 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
法人を設立した場合、まず必要になるのが「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」です。
これは、その会社が健康保険・厚生年金保険の適用事業所になったことを年金事務所に届け出る手続きです。
重要なのは、法人の場合、社長1人だけの会社であっても原則として社会保険の適用対象になるという点です。
個人事業主の場合は、業種や従業員数によって社会保険の適用関係が変わりますが、法人の場合は代表取締役1人であっても、役員報酬が支払われているのであれば、社会保険の加入対象になります。
提出先は、管轄の年金事務所です。
添付書類としては、法人登記簿謄本、または法人番号指定通知書のコピーなどが必要になります。実務上は、労働保険関係の手続きでも登記簿謄本を使うため、会社設立直後に3か月以内に発行された登記簿謄本を準備しておくとスムーズです。
2. 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
新規適用届とセットで提出するのが、「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」です。
新規適用届は、会社そのものを社会保険の適用事業所として登録する手続きです。
一方、被保険者資格取得届は、その会社で実際に健康保険・厚生年金保険に加入する人を届け出る手続きです。
たとえば、社長1人だけの法人であれば、社長本人について被保険者資格取得届を提出します。従業員も社会保険の加入要件を満たす場合には、その従業員についても資格取得届を提出します。
この手続きでは、マイナンバーの記載が必要になります。マイナンバーカードそのものが必要というより、マイナンバーの番号情報が必要になるイメージです。
3. 健康保険 被扶養者(異動)届
社会保険に加入する本人に、扶養に入る家族がいる場合には、「健康保険 被扶養者(異動)届」も必要になります。
たとえば、配偶者や子どもを扶養している場合です。
配偶者や子どもが収入要件等を満たし、被保険者によって生計を維持されている場合には、健康保険上の扶養に入れる可能性があります。
この届出も、提出先は管轄の年金事務所です。被扶養者に該当する場合には、原則として扶養に入った日から5日以内に提出する必要があります。
社会保険関係の手続きは、会社設立直後にまとめて対応することが多いため、扶養家族の有無も早めに確認しておく必要があります。
4. 労働保険関係成立届
従業員を雇う場合に、まず必要になるのが「労働保険関係成立届」です。
労働保険とは、労災保険と雇用保険を合わせたものです。
労災保険は、従業員が業務中や通勤中にケガをした場合などに給付を行う制度です。雇用保険は、失業した場合の基本手当、いわゆる失業手当などに関係する制度です。
法人が従業員を1人でも雇用する場合には、原則として労働保険の適用事業所になります。
ここで重要なのは、労働保険関係成立届を最初に提出する必要があるという点です。
なぜなら、雇用保険適用事業所設置届を提出する際には、労働保険番号が必要になるためです。労働保険番号は、労働保険関係成立届を提出することで付与されます。
つまり、順番としては、
労働保険関係成立届
↓
労働保険番号の取得
↓
雇用保険適用事業所設置届
という流れになります。
提出期限は、保険関係が成立した日の翌日から10日以内です。提出先は、原則として管轄の労働基準監督署です。
添付書類としては、登記簿謄本のコピー、事業所の実在性を確認できる書類などが求められます。事務所を借りている場合には、賃貸借契約書が使われることが多いです。
5. 労働保険 概算保険料申告書
労働保険関係成立届と一緒に提出するのが、「労働保険 概算保険料申告書」です。
労働保険料は、基本的に前払いの仕組みです。
会社設立後、従業員を雇用した場合には、今後1年間でどれくらいの賃金を支払う見込みなのかを算出します。その見込賃金総額に労働保険料率を掛けて、概算の労働保険料を計算します。
たとえば、月給20万円の従業員を1人雇う場合、年間賃金見込額は20万円×12か月で240万円です。この240万円をもとに、労災保険料や雇用保険料を計算して、概算保険料として申告・納付します。
翌年度になると、実際に支払った賃金総額をもとに確定保険料を計算し、前年度に納付した概算保険料との差額を精算します。
この手続きが、いわゆる「年度更新」です。
年度更新は、毎年6月1日から7月10日までの間に行います。社労士業界では、6月に入ると年度更新対応が本格化します。
概算保険料が一定額以上になる場合には、分割納付ができることもあります。資金繰りの観点から、分割納付が可能であれば活用を検討してもよいでしょう。
6. 雇用保険 適用事業所設置届
労働保険関係成立届を提出した後に行うのが、「雇用保険 適用事業所設置届」です。
これは、その会社が雇用保険を取り扱う事業所であることをハローワークに届け出る手続きです。
提出先は、管轄のハローワークです。
この届出には、労働保険番号を記載する欄があります。また、労働保険関係成立届の控えのコピーを添付する必要があります。
そのため、雇用保険適用事業所設置届は、労働保険関係成立届より先に提出することはできません。
提出期限は、適用事業所を設置した日の翌日から10日以内です。
実務上は、労働基準監督署で労働保険関係成立届と概算保険料申告書を提出し、その後ハローワークで雇用保険適用事業所設置届を提出する、という流れになります。
7. 雇用保険 被保険者資格取得届
雇用保険の適用事業所になった後は、雇用保険に加入する従業員について「雇用保険 被保険者資格取得届」を提出します。
これは、個々の従業員を雇用保険の被保険者として登録する手続きです。
提出期限は、雇い入れた月の翌月10日までです。
たとえば、4月1日に従業員を雇い入れた場合、5月10日までに提出する必要があります。
一方、退職時の手続きは期限が異なります。従業員が退職した場合の雇用保険被保険者資格喪失届は、退職日の翌日から10日以内に提出する必要があります。
資格取得は翌月10日までなので比較的余裕がありますが、資格喪失は10日以内と短いため、退職手続きは特に注意が必要です。
8. 36協定届
従業員に法定時間外労働や休日労働をさせる場合には、36協定の締結と届出が必要です。
36協定とは、労働基準法36条に基づく労使協定です。
よくある誤解として、「残業が月45時間を超えなければ36協定はいらない」と思われることがあります。
しかし、これは誤りです。
36協定は、1分でも法定時間外労働をさせる場合に必要です。月10時間の残業であっても、月1時間の残業であっても、法定労働時間を超えて働かせるのであれば、36協定の締結と届出が必要になります。
提出先は、管轄の労働基準監督署です。
従業員を雇う会社では、残業が発生する可能性があるかどうかを事前に確認し、必要であれば早めに36協定を整備しておくべきです。
9. 就業規則
就業規則は、会社の労働条件や服務規律をまとめたルールブックです。
法律上、常時10人以上の従業員を使用する事業場では、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。
ただし、実務上は、従業員が1人でもいるのであれば、就業規則を作っておくことをおすすめします。
なぜなら、就業規則は会社と従業員の共通ルールになるからです。
就業規則がない場合、会社のルールが不明確になります。勤務時間、休日、休暇、服務規律、懲戒、退職、解雇、休職、賃金などについて、何を基準に判断するのかが曖昧になります。
就業規則というと、会社側を縛るもの、従業員の権利を守るものというイメージが強いかもしれません。
もちろん、その側面はあります。
しかし、それだけではありません。
就業規則は、会社が従業員に対して適正な労務提供を求める根拠にもなります。会社と従業員が、お互いに同じルールを確認し、そのルールに基づいて健全な労使関係を築くための書類でもあります。
口頭の約束だけでは、後から「言った・言わない」の問題が起こります。
特に、今後会社を大きくしていく予定がある場合や、助成金の活用を検討している場合には、早い段階で就業規則を整備しておくことが重要です。
就業規則を労働基準監督署へ届け出る場合には、労働者代表の意見書も必要になります。
10. 雇用契約書・労働条件通知書
従業員を雇用する場合には、雇用契約書または労働条件通知書を作成します。
会社によっては、「雇用契約書」「労働条件通知書」「雇用契約書兼労働条件通知書」など、さまざまな名称で運用されています。
重要なのは、名称そのものではなく、労働条件が適切に明示されているかどうかです。
就業規則は、事業場全体に適用されるルールです。
一方、雇用契約書は、会社と個々の従業員との間で締結する契約書です。
たとえば、同じ会社であっても、正社員、契約社員、パート、アルバイトでは、労働時間、賃金、契約期間、業務内容などが異なることがあります。
その個別条件を明確にするのが、雇用契約書・労働条件通知書です。
労働条件通知書には、労働基準法で定められた絶対的明示事項を記載する必要があります。契約期間、就業場所、業務内容、始業・終業時刻、休憩、休日、賃金、退職に関する事項などです。
一部の事項については、就業規則に委任する形で記載することもあります。
たとえば、「解雇に関する事項は就業規則第〇条による」といった形です。
雇用契約書・労働条件通知書は、行政官庁へ提出する書類ではありません。各従業員と締結・交付する書類です。
近年では、電子契約や労務管理システムを使って、雇用契約書や労働条件通知書を電子化する会社も増えています。
手続きは電子申請でも対応できる
社会保険、労働保険、雇用保険、36協定などの多くの手続きは、電子申請で対応できます。
国の電子申請システムであるe-Govを使えば、社労士に依頼しなくても、自社で申請することは可能です。
費用を抑えたい場合には、自分で調べながら手続きを進める選択肢もあります。
ただし、実際には、手続きの順番、添付書類、記載内容、提出先、期限などを1つずつ確認する必要があります。
その時間を自分でかけるのか。
それとも、専門家に依頼して、会社の本業に集中するのか。
これは経営判断です。
会社設立直後は、営業、採用、資金繰り、顧客対応、サービス設計など、やるべきことが非常に多い時期です。社会保険や労働保険の手続きに時間を使いすぎると、本来注力すべき業務に使える時間が減ってしまいます。
一方で、自分で手続きを経験することには、会社経営の仕組みを理解できるというメリットもあります。
どちらが正解というより、自社の状況、時間、予算、今後の成長スピードに応じて判断することが大切です。
まとめ
会社設立後には、社会保険、労働保険、雇用保険、36協定、就業規則、雇用契約書など、複数の手続きが必要になります。
特に法人の場合、社長1人だけの会社であっても、社会保険の手続きが必要になる点には注意が必要です。
また、従業員を1人でも雇う場合には、労働保険関係成立届、概算保険料申告書、雇用保険適用事業所設置届、雇用保険被保険者資格取得届などが必要になります。
さらに、残業をさせる場合には36協定、会社のルールを明確にするためには就業規則、個別の労働条件を明示するためには雇用契約書・労働条件通知書が必要です。
会社設立後の手続きは、後回しにすると漏れやミスが起こりやすい部分です。
最初の段階で正しく整備しておくことで、従業員を安心して雇用できる体制を作ることができます。
これから会社を立ち上げる方、従業員を雇う予定がある方は、早めに社会保険・労働保険・労務管理体制を整えておきましょう。