「店長にしたら残業代はいらない?」美容室が間違えやすい管理職の扱い
「店長に昇格したら、残業代は払わなくていいんですよね?」
目次
1.「管理職」と「管理監督者」は違う
2.判断するときの3つの視点
3.こんな店長の扱いは見直したい
4.管理監督者でも必要なこと
5.昇格前に整理したいこと
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店舗が増え、店長に任せる仕事が増えると、そんな疑問が出てきます。スタッフの教育、シフト作成、売上管理。責任のある仕事だからこそ、給与の扱いもきちんと整理しておきたいところです。
先に結論をお伝えすると、「店長」という肩書きだけで、残業代が不要になるわけではありません。ポイントは、労働基準法上の「管理監督者」に当たるかどうか。美容室の現場に置き換えて、確認したいことをまとめます。
1.「管理職」と「管理監督者」は違う
管理職は、会社の中での役職です。一方、管理監督者は、労働基準法第41条第2号に関わる法律上の区分です。
管理監督者とは、労働条件の決定や労務管理について、経営者と一体的な立場にある人を指します。該当する場合は、労働時間・休憩・休日の規定が適用除外となり、法律上の時間外・休日割増賃金の扱いが変わります。
ただし、契約書に「管理監督者」「残業代なし」と書くだけでは足りません。実際に任されている仕事、権限、働き方、待遇から判断します。会社が決めた店長、エリアマネージャー、幹部という名称だけでは決まりません。
2.判断するときの3つの視点
① 職務・責任・権限はどこまである?
「後輩を指導している」「売上目標を追っている」ことだけで判断せず、経営や人事について、実質的にどの程度の判断を任されているかを確認します。
サロンなら、採用や人事評価への関与、労働条件や人員配置についての権限などを整理すると、役割が見えやすくなります。重要な事項はすべてオーナーが決め、店長は指示を伝えるだけという状態なら、慎重な確認が必要です。
② 勤務時間に実際の裁量はある?
書類上「自由に出退勤できる」としていても、予約や人手不足のため、毎日開店から閉店まで現場に立たなければならない。それでは、実際に時間を調整できるとは限りません。
制度上の自由と、現場で使える自由は別です。施術や接客と管理業務にどのくらい時間を使い、自分の出退勤をどの程度決められるのかまで確認しましょう。
③ 責任に見合う待遇になっている?
基本給、役職手当、賞与などを含めて、地位にふさわしい待遇かどうかも判断材料になります。「店長手当をつけたから大丈夫」とは言い切れません。
残業代を含めると一般スタッフと給与総額がほとんど変わらない、といった状態も確認したい点です。「手当が○万円なら認められる」という一律の金額基準はありません。
この3つは、一つ満たせば合格というチェックリストではなく、実態を総合して判断するための視点です。
根拠:厚生労働省「管理監督者に関する裁判例・判断のポイント」/厚生労働省「管理監督者の範囲の適正化に関するQ&A」
3.こんな店長の扱いは見直したい
例えば、次のようなサロンを考えてみてください。これは説明のための仮の例です。
• 採用・給与・人事評価の重要な判断はオーナーが行う
• 店長も一般スタッフと同じシフトで働き、欠員が出れば必ず穴を埋める
• 一日の大半が施術・接客で、出退勤を調整する余地がほとんどない
• 昇格後に少額の手当をつけ、残業代の支払いをやめた
このような状態なら、「店長だから管理監督者」と扱う前に、実態を点検する必要があります。管理監督者に当たらなければ、法定時間外労働・法定休日労働に対する割増賃金の支払いが必要です。
参考になるのが、日本マクドナルド事件(東京地裁・2008年1月28日判決)です。店長がアルバイトの採用や教育、シフト管理などを行っていても、権限、勤務の裁量、待遇を踏まえ、管理監督者には当たらないと判断されました。
美容室の店長が全員同じ結論になるという意味ではありません。「店長らしい仕事をしている」だけでは、法律上の判断は終わらないという参考になります。
4.管理監督者でも必要なこと
深夜の割増賃金
管理監督者でも、22時から翌5時までの労働には、25%以上の深夜割増が必要です。閉店後の業務が22時を超えるサロンでは、対象の時間を記録し、給与計算に反映する必要があります。
根拠:厚生労働省の管理監督者向けパンフレット/厚生労働省「深夜の割増賃金について」
年次有給休暇
年次有給休暇の規定も適用されます。年10日以上の有給休暇が付与される人には、年5日の取得を確保する義務があり、管理監督者も対象です。「店長は有休なし」という運用はできません。
健康管理のための労働時間の把握
管理監督者についても、健康管理のために労働時間の状況を把握する必要があります。勤怠ソフトやタイムカードなど、客観的な記録を基本にしましょう。
なお、健康管理や深夜割増の計算のために打刻を求めること自体で、管理監督者ではなくなるわけではありません。時間の裁量があるかという判断と、働いた時間を記録することは分けて考えます。
根拠:宮城労働局「労働時間の状況の把握」/厚生労働省「管理監督者に関するQ&A」
5.昇格前に整理したいこと
店長を任命するときは、給与の変更と一緒に、次の点を整理するのがおすすめです。
• 任せる仕事と、本人が判断できる範囲
• オーナーの承認が必要な事項
• 施術・管理業務の配分と、勤務時間の裁量
• 基本給・手当・賞与を含む待遇
• 勤怠記録、深夜割増、有給休暇の運用
• 雇用契約書・就業規則・給与計算設定との整合性
書類だけ整えても、実際の働き方が変わらなければ判断は変わりません。すでに残業代を払っていない場合は、役割や勤怠、過去の給与計算も含めて確認しましょう。
昇格したその日から、自己判断で残業代を止めないこと。店長が安心して役割を担えるよう、権限と責任、給与をセットで設計することが大切です。
美容室の労務相談はSHARO tokyoへ
SHARO tokyoは、美容業界と成長企業の支援に力を入れる社労士事務所です。労務相談、就業規則、給与計算、HRテックの活用などを通じて、サロンの運営を支えています。
「うちの店長は管理監督者に当たる?」「店長手当や勤怠管理をどう設計すればいい?」という疑問は、実際の権限や勤務状況を整理するところから始めましょう。
※本記事は一般的な制度の解説です。管理監督者への該当性は、個別の勤務実態等によって判断されます。法令・公的資料は2026年10月確認。